【特設】ウクライナの芸術・文化の紹介ページ

2022年5月5日 岩崎 純一(岩崎純一学術研究所代表、IJ ART MUSIC 代表・作曲家、日本大学芸術学部非常勤講師など)

 私がもう20年以上のウクライナ音楽ファンであることを英語版サイトのウクライナ特設ページでも書きましたが、私が好きな曲の中から、今回のロシアによるウクライナ侵攻を予言していたかのような2007年の詩と曲を、日本語訳で紹介します。

 これは岩崎が大学の授業などでも(詩の鑑賞・批評という名目で)使用している作品です。当地のファンによって、ソ連時代のウクライナ(ウクライナ・ソビエト)による戦争ドラマ “Only ‘Old Men’ Are Going Into Battle”(「戦争をしたがるのはいつも年寄り(人生経験が豊富なはずの者)ばかり」の意)や『ロミオとジュリエット』の恋愛悲劇にも複雑に重ねられてきました。すでに今回のロシアによる一般市民への殺害作戦で家族やパートナーを殺されたファンからも、「当時から、ロシアは次はウクライナにやって来ると思ってこの詩・曲を聴いていたが、本当にこうなるとは」といった感想が寄せられています。

 ちなみに、ゼレンスキー大統領も演劇(喜劇)役者出身ですので(喜劇と悲劇の差はあれど)、あれほどロシアに抵抗しつつ、(しばしば発言からも分かる通り)欧米・日本のことをそこまで信用していないのも、ウクライナ文化を自分たちの手で死守してみせるという理由があるのです。

【留意点】

 なお、先生方や学生もご存じの通り、私自身の所属先の一つはかなりロシア色が強い環境であり、(大学の公表情報からも簡単に分かりますが)ロシア人との婚姻者やロシア芸術を研究する先生・学者・学生もいますので、ウクライナ文化の保存への協力やウクライナへの寄付などの活動については当サイトでのみ公表しております。あくまでも私個人とIJAIスタッフの信条によるものですので、お問い合わせは必ず私かIJAIスタッフまでお願いいたします。

 誤解なきように一応書きますと、欧米ではロシア関連の内容を大学の科目や研究から外すか外さないかであちこち大喧嘩していますが、私の所属学部では、ウクライナ文化を肯定的に扱ったりウクライナ音楽ファンを公言したところで注意を受けたなどということはありません。ただ単に、文化趣味としてマニアックすぎ、関心を持つ大学人・研究者が日本にほぼいないというだけだと思います。但し、日本のロシア研究者・ロシア文学研究者全体で見ると、特に5月に入ってロシアに肩入れした発言をする人が出てきている状況ではあります。

 私は、ロシアがたびたび発表しているロシア出入国禁止リストに入ったりターゲットになるような立場には全くありませんが、状況が状況ですし、大学内外でロシア人と会うようなこともありますので、大げさながら、一応上記の状況は気にさせて下さい。詳しくは、英語版の方の特設ページで書いた内容もご覧下さい。

 このような侵略戦争でも起きなければ、日本から見てマイナーな国の文化に日本の大学教育が触れることなどないでしょうから、あえて取り上げるまでです。

【留意点終わり】

 さて、このバンドのように、ウクライナの音楽家・音楽グループは最初からロシア語で詩を書いている場合が多いです。しかしそれは、彼らのアイデンティティーの基礎や精神的基盤がウクライナ語・文化に無いからでなく、ウクライナの人口4500万人に向けてウクライナ語で反戦とロシアへの抵抗を綴るよりも、1億5000万人のロシア国民および世界のロシア語話者にロシア政府の横暴をロシア語で訴える方が有効である(更にロシア語からは英語に翻訳しやすい)からです。かつ、ウクライナの音楽産業ルートだけではウクライナの音楽家は生活できないためです。ウクライナは、GDPや家計といった数字の上でも、欧州最貧国であることを知っておきましょう。

 事実として、今回のウクライナ侵攻でも、ロシア国民による政権支持率は上昇しており、かつ戦争の惨禍を無視して音楽の購買など娯楽をできる状況にあるのはロシア国民の方です。

 この曲の作者であるオレーナさんが率いるグループも、モスクワなどロシア国内でのライブを諦めたほか、拠点がオデーサで、いよいよ同地にも攻撃が始まっており、ミサイルが上空を飛ぶ映像をご自身の手で撮影し掲載しています。他国の研究者や支援者が、今のうちにこのようなウクライナ文化の他国への中長期的避難(および、できればウクライナ、特にガリツィア東部、オデーサ、ドニエプル川、キーウで囲まれる地への再定着)について本気で考えておく必要があると思います。

 多くの曲がそうなのですが、この曲も、ほとんどロシア語で読まれていながら、少しウクライナ訛りが見られるのが魅力を感じているところです。

 詩については、作者とグループはそこまではっきりと表明していませんが、おおむね次のような経緯での作と思われます。

 この曲が発表された当時は、他にもウクライナ側から反戦の芸術作品が多く出たのですが、第二次チェチェン紛争のさなかであり、一方でロシア・ジョージア戦争(南オセチア紛争など)、ロシア・ウクライナ戦争(クリミア併合、ドンバス戦争、ノヴォロシア人民共和国連邦の宣言など)、シリア空爆などはまだ発生していませんでした。従って、この曲も、ホロドモール(ウクライナ飢饉)や独ソ戦(特に、先の映画に描かれたドニエプル川の戦いなど。ウクライナ国民はソ連の圧政下でドイツを歓迎。)などの先行する一般人への殺戮を重ねつつ、チェチェンなどの現状を見て嘆き、更にのちのウクライナの同様の運命をいわば予見した詩になったと思われます。

 一見すると、ロミオとジュリエットの恋愛悲劇の模様そのものを描いたと思えますし、私もファンになった初期の頃はそう思っていたのですが、単語やフレーズに、ウクライナ側からの(ロシアから目を付けられない程度に高度に迂回した)比喩・隠語表現が多用されており、明らかに国家間紛争の悲しみを表現しています。単なる恋愛ソングではなく、むしろロシア(政府、軍、国民)に呼びかけた詩でしょう。

曲名:私たちは死ぬことはありません(ウクライナ版『ロミオとジュリエット』の改作映画の挿入曲)
グループ:Flёur(フリュール)
作詩・作曲・ボーカル:オレーナ・ヴォイナロフスカヤ(フリュールのボーカルの一人。現在は別のグループとして活動中。)

※ この時の主要メンバーは8名で、このライブでも8名+補助メンバーで演奏しています。
※ まだロシア国内でロシアのファンを前に演奏できていた頃(2007年)の、サンクトペテルブルクでのライブ映像を引用させていただきました。(引用元:ダークサイド・ロシア)
※ この曲は、ライブでは2007年から演奏されており、CDリリース(アルバムへの収録)は2008年でした。

日本語訳(岩崎による)

時は(年月が経つと)、また軍隊の歴史の1ページをめくり始めます。(ライブでの別バージョン:私たちは軍隊の~をめくりたくありません。)
空が低く燃えています。
不穏な交響曲の不協和音の中、愛が溺れていきます。
私たちはこの戦争でお互いを喪失しています。

爆弾は猛烈な勢いで空を飛び、月日は矢のごとく過ぎ去ります。
私の心臓は、病魔に冒されたメトロノームのように鼓動しています。
(ドイツやチェチェンによって→今は「ウクライナによって」と読み替えられる)空が燃えているとあなた(ロシア)は私に言います。
私たちは決して死ぬことはありません。

そして、(軍隊であるロシアは)軍服を着替えたらいいのです。
(私自身であるドイツやチェチェンも→今は「ウクライナも」と読み替えられる)青いオーガンザでこしらえたドレスに着替えるのはどうでしょう。
雨と遠くの雷の音を聞きながら、
私はあなたと私の腕を取り抱擁して、一緒に眠りにつくのです。

お互いの生と死の数、損失を勘定し合わず、損失を超えて生きましょう。
色々とレンガの家を建てましょう。
時の流れを信頼するのです。
私たちは決して死ぬことはありません。

月明かりに照らされた道の向こう、
遠く星座の見える霧の奥で、
待望の平和が私たちを待っています。
何が起こっても関係なく、お互いに近いか遠いかも関係なく、
あなたと私は必ずいつも一緒になるのです。

私たち二人が一緒にいる限り、
私たちを分けへだてる喪失の風は無力です。
私たちは決して死ぬことはありません。
私はほとんどそう信じています。


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