岩崎純一のウェブサイト > 精神病理学・精神疾患研究 > 性関連障害
サイトレイアウト切り替え
  • 主にデスクトップ向けのレイアウトに切り替える
  • 主にラップトップ向けのレイアウトに切り替える
  • 主にタブレット向けのレイアウトに切り替える
  • 主にスマートフォン向けのレイアウトに切り替える
  • 主に旧型モバイル向けのレイアウトに切り替える
ページ内移動

性関連障害

精神医学的定義
精神医学的定義の概要
女性の性の三つの側面
罹患者との個人的交流
「岩崎式日本語」にまつわる個人的交流
参考文献

精神医学的定義

 ICD-10 : F52 性機能不全、器質性障害又は疾病によらないもの (Sexual dysfunction, not caused by organic disorder or disease)
 ICD-10 : F53 産じょく<褥>に関連した精神及び行動の障害,他に分類されないもの (Mental and behavioural disorders associated with the puerperium, not elsewhere classified)
 ICD-10 : F64 性同一性障害 (Gender identity disorders)
 ICD-10 : F65 性嗜好の障害 (Disorders of sexual preference)
 ICD-10 : F66 性発達及び方向づけに関連する心理及び行動の障害 (Psychological and behavioural disorders associated with sexual development and orientation)
 DSM-IV-TR : 11 性障害及び性同一性障害 (Sexual and Gender Identity Disorders)
 MedlinePlus 001527, MeSH D005783 : 性同一性障害 (Gender Identity Disorders / Gender Dysphoria)
 MeSH D010262 : 性的倒錯 (Paraphilias)

精神医学的定義の概要

 性関連障害は、WHO(ICD)とAPA(DSM)とで見解が最も大きく異なる精神・行動の障害の一群である。

 まず、性関連障害は共通して、大きく「性機能不全」、「性嗜好の障害」、「性同一性障害」の三つに分けられる。性機能不全は、性欲欠如、性器反応不全、オルガズム機能不全、腟痙などを含み、性嗜好の障害(性欲倒錯)は、フェティシズム、露出症、サドマゾヒズムなどを含む。性同一性障害は、広義の性同一性障害、性転換症を含むが、小児<児童>の性同一性障害と若年・成人の性同一性障害とが区別される点では、各分類間で違いはない。

 ただし、ICDでは、性機能不全は、摂食障害や睡眠障害と共に「F50-F59 生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群」の下位分類であり、性嗜好の障害と性同一性障害は、人格障害や病的賭博・放火・窃盗などと共に「F60-F69 成人の人格及び行動の障害」の下位分類である。

 DSMは、ICDに比べれば時代の流れに即した分類・基準となっているが、主に「性機能不全」とそうではない「性的倒錯」の二つを合わせて単に「性障害」と呼んでいることが多く、「性同一性障害」はこれらのいずれとも異なる障害であるとしている。

 ICDでは、性機能不全を性嗜好の障害と性同一性障害から区別する姿勢が優先的であって、DSMでは、まず性関連障害を一括して総合的に扱い、次に性同一性障害を他の性関連障害から区別する姿勢が優先的である。

 性同一性障害は、身体の性、性自認、性指向などの組み合わせによっていくつものバリエーションに分かれるが、これらは全て翻訳語・翻訳概念であって、今なお原語を正確に反映しているとは言い難い。さらに、これらの要素のうち、いずれが先天的ないし生得的な因子でいずれが後天的ないし学習的な因子であるかが決定されているわけではない。また、いずれが器質的な因子でいずれが非器質的な因子であるかも決定されていない。

 逆に、男性の多くの勃起不全のように、身体の器質的な異常がないまま、日常生活における神経症性のストレスや不安症状が主要な原因となっている性障害も存在するため、時代に柔軟に対応可能であるのは、やはりDSMのほうであると考えられる。

 いわゆる同性愛、両性愛、無性愛は、性関連障害には含まれないとされている。

女性の性の三つの側面

 性犯罪・性的虐待の加害者の性差を見ると、電車内で知人男性と協力して痴漢をでっち上げたり、我が子やその他の幼児・児童(男児・女児の両方を含む)の下着をネットオークションで売ったりするなどの、暴力を伴わない性犯罪・性的虐待の件数を全て合算すると、男女間に有意な差は見当たらないものの、レイプ・性暴力などの重大な性犯罪については、今なおそのほとんどが男性によるものであると言える。性関連障害を考える際に、まずは「性の不均衡」という観点から「女性の性」について考えることは極めて重要である。

 ここでは、女性の性の三つの側面について考える。主に「性嗜好の障害」や「性的倒錯」に関する内容であるが、「解離性障害」や「パーソナリティー障害」とも深く関連している。

 ●A「自己と社会との関係性の問題としての女性の性」・・・性道徳・性倫理や、それを守るための防衛反応の結果としての解離性障害・PTSD・複雑性PTSD・離人症
 ●B「被害者としての女性の性」・・・性虐待・性暴力・強姦・準強姦・強制わいせつ・セクハラ・マタハラなど
 ●C「オンナ・雌としての女性の性」・・・性欲・性嗜好・ニンフォマニア・サドマゾ願望・被痴漢願望・被レイプ願望・エログロ・ロリータ趣味など

 このうち、現代の性被害女性の防衛反応・悲嘆反応として最も典型的な例は、Aのような自己と倫理とを持つ女性がBの被害によって自己と倫理を侵され、Aのような心や脳の症状を発症するパターンである。この場合、性被害を受けた苦悩や被害体験のフラッシュバックへの恐怖から、被害体験を忘れようとしたり覆い隠そうとしたりして主治医などの第三者に報告しない(できない)場合も多く、性被害の実態が判然としない一因となっている。

 現在では、解離性障害・離人症・PTSD・複雑性PTSDなどは神経症性障害に近いか、またはその仲間だと考えられるようになっているが、これら神経症性障害の出方は生育・生活環境によって全く異なる。すなわち、Aの前半のような自己の確立・性倫理が見られない部族社会や文化圏では、Aの後半のような症状の女性の報告は少ない。Aの道徳・倫理と防衛反応は、「自己と社会との関係性」を意識した女性にしか表れないものとして表裏一体のものであると言える。

 ただし、アフリカの部族社会に残る強制的な女子割礼の儀式など、現代の国際的な人権意識・性倫理・衛生観念に照らして問題視されている文化風習については、性的虐待の一種と見て、被害女児の解離性障害・PTSD・複雑性PTSD・離人症などの発症の実態を調査する意義はあると考えられる。

 現代の先進国の女性の多くは、たとえBの被害経験がなくとも、義務教育期に性教育を受けたり性犯罪・性的虐待事件をニュースなどで知ったりすることによって、Aのような性道徳・性倫理を獲得しており、解離性障害やPTSDほどではなくとも、性犯罪・性的虐待に対しては強い抵抗感と防衛反応・悲嘆反応を自覚するのが普通であると言える。

 しかし、Aのような性倫理や心的外傷を得ていても、Bの経験を主張する女性が本当にBの経験を持っているとは限らない。解離性障害のページでも解説したように、稀に虚偽記憶と言って、痴漢やレイプをされたと妄想と幻覚の中で訴えて解離する女性もいる。男性では、このような性被害の捏造・虚言の報告はほとんど見られない。(ただし、虚偽記憶による解離の場合も、性犯罪事件をニュースで見たり友人が痴漢されるのを目撃したりしたなど、前もって何らかのトリガーがあることが多い。)

【参考】
解離性障害(特に「ストックホルム症候群・リマ症候群」の項を一読されたい。)

 また、Bのような被害を受けても、Aの前半のような道徳・倫理を獲得していなかったり、Cが強かったりする女性では、Aの後半の一連の神経症性障害の症状は見られない。稀に、レイプ・性的暴行中の抵抗の断念や意図せぬ性的絶頂感などによって、再度のレイプ・性的倒錯行為に対して無抵抗・無感情となったり、それらの行為を加害者に対して自ら要求したり、加害者に結婚を申し込んだりするパーソナリティー障害に至る女性も存在する。

 もっとも、これら自虐的・自己敗北的な行動を積極的に選択するパーソナリティー障害は、現在では「特定不能のパーソナリティー障害」に該当するものであると考えられるが、かつては「自己敗北性パーソナリティー障害」や「マゾヒスティックパーソナリティー障害」と呼ばれたものである。

【参考】
人格(パーソナリティー)障害

 当初DSM-III-Rの付録に掲載されたこの自己敗北性パーソナリティー障害(マゾヒスティックパーソナリティー障害)は、DSM-IVやその後継であるDSM-IV-TRの作成にあたり、診断分類の正式な創設が提唱されたものの、このパーソナリティー障害概念そのものが男性視点からの女性性に対する侮蔑的な定式化であるとするフェミニスト団体などからの批判を受けて断念された。

 この背景には、DVや性的暴行を受けながらも夫やパートナーの男性に生計を頼ったり離婚を要求したりしない女性が人格(パーソナリティー)に障害のある者と見なされてしまうことへの、フェミニストらの強い懸念があったのである。

 しかし、こういったフェミニズムにおいて、上記の女性の性の三つの側面のうちのCの視点が欠落していたことを考えれば、性嗜好の障害や性的倒錯の傾向の強い自虐的なパーソナリティー障害として「自己敗北性パーソナリティー障害」を診断分類として設けておくことは、かえって被害女性の性的倒錯的逸脱行動が必ずしも当該女性が自ら望むものではないことを的確に主張するための助けとなると考えられる。

 むろん、現在では、被害女性がたとえ性被害に歓喜したり陶酔したりしたとしても、加害者が刑法犯として法的処罰を受けるのは当然である。しかし、BとAの関係が女性個々人の「自己のあり方」と「自己による受け止め方」によって異なっている現状には、十分に留意すべきである。

 同程度のレイプ被害や痴漢被害に遭ったとして、男性恐怖が一生涯続くほどの心的外傷を負った女性もいれば、特に心的外傷なく翌日も平常通り通勤できている女性もいるのが、皮肉にも現実社会であると言える。しばしば円滑に「示談」が成立してしまうのも、そのためである。

 また、Aのような道徳・倫理を持っている女性でも、Cのような個人的・秘密的な性嗜好を持つ被害女性は多く存在するし、Bのような被害に遭ったあとにAのような症状の重症化の方向を見せずにCが目覚める被害女性も存在する。

 あるいは、解離性同一性障害に陥っている女性は、「人格」ごとにA・B・Cのあり方が異なっている場合が多く、Cを持つ破天荒な人格の際に援助交際を行い、通学・通勤の際にはAの倫理と症状を持つ控えめな人格に戻っている女性もいる。自己敗北性パーソナリティ障害の性的倒錯行動もこれに類似しており、より安全な選択肢があっても自らの精神的・身体的・性的破滅を導く道を選択する。

 性被害に遭った発達障害・学習障害の女性においても、解離性障害・PTSD・不安障害などを発症することがあるほか、男性恐怖から性的倒錯まで様々な症状の表れ方をする。

 このように、女性の性のあり方は多種多様になっている。性被害を受けた全ての女性が解離性障害・PTSD・不安障害などを発症するのであるから一律に治療プログラムを適用しなければならないといった思い込みも、また不適切な女性蔑視なのであって、性関連障害や自己敗北性パーソナリティー障害、中でもニンフォマニア・サドマゾ願望・被痴漢願望・被レイプ願望などの性嗜好の障害や性的倒錯を発症する女性も一定程度おり、そういった女性に対してはまた別の対応が必要だということである。

罹患者との個人的交流

 いわゆる男女の二大性に当てはまらない性のあり方への私の関心は、性障害及び性同一性障害よりも、遺伝的な疾患(ターナー症候群、クラインフェルター症候群)への関心に始まった。後者は、「否応なしに与えられた遺伝的宿命」であるという点で、性障害や性同一性障害にまつわる上記のような見解の相違(内因・外因・心因を巡る議論など)が起こりようがなく、かえって安心して見ていられた。

 現在では、性同一性障害の定義に該当する方々との交流も増えてきている。今後、性同一性障害については、時代の流れもあって、心因的・倒錯的な障害と見る動きはほとんど消えていくと考えられるが、ICDにおける性関連障害や、DSMにおける性障害の概念に相当することはないと考えられる。

 いずれにせよ、性同一性障害は、性機能不全でも性的倒錯でもないが、精神及び行動の障害の一つとされる。これは、心因・外因(親の偏向した教育への服従、レイプ被害、頭部外傷など)によって性同一性障害となるケース(遺伝的・生得的な原因が発見されないケース)を取りこぼさないための措置にもなっているにもかかわらず、「性同一性障害は、全て本人の遺伝的・生得的な要因から生じるもので、いかなる場合も治療を施してはならない」と誤解されているケースも多いと思う。

 それに、性同一性障害の扱い方は、欧米主導の疾病分類改定に際し、キリスト教保守派・カトリック勢力と人権団体・フェミニズム勢力のどちらの意向が大きくはたらくかによって、容易に変わってくるだろう。性同一性障害や同性婚の扱いについて現在世界的に最も革新的であるのは、北欧各国やオランダなど、カトリック原理主義的な教義から距離のある国となっている。

 また、日本においても、保守勢力と中道左派・革新勢力との間、あるいは所属政党・団体に関係なく個々人の間で見解が大きく異なる精神疾患の一つとなっている。

 さて、性関連障害にまつわる探究の中で、私が最も多く交流してきたのは、援助交際・売春に身を投げてきた10代・20代の女性である。中には二十歳前後までに100人近くの男性と関係を持った女性が数名いた。親や姉に当たる女性の方々の多くは、これらの女性を「ただの異常なセックス好き」、「性的倒錯」だとして見放している。

 確かに、このような女性を性的倒錯女性と見なす立場もあるだろう。性的倒錯については、露出症や窃視症やレイプのように、男女の二大性のいずれかに「極めて強く」該当する者による趣味・嗜好・犯罪が多いのであり、その場合、むしろ性同一性障害者の悩みとは全く対極にあると言えるし、自分から好き好んで援助交際をおこなっている女性もいるだろう。いつの時代も需要と供給の両方が絶えることのなかった産業の筆頭がこの性産業であり、あるいは産業でさえなかった原始の乱交の時代を、我々人類は動物として経験してきたわけである。

 しかし、少なくとも私が交流してきたこれらの女性を見る限り、彼女たちの援助交際・売春は、「性的倒錯」や「性嗜好の障害」などではないと思っている。

 これらの女性は、子供の頃に産みの親、育ての親、実の姉などから虐待を受けたり捨て子に出されたり売られたりしているなど、近親者の愛情と承認を受けていない女性である。そうである以上、自らの趣味嗜好でサドマゾヒズム行為に傾倒したり、報酬欲しさから成人向けビデオ出演などに傾倒している、「精神医学が救う必要がなく、自己責任に任せるしかない」女性とは、やはり分けて考える必要があると思う。

 かつて松下幸之助は「水道哲学」を提唱したが、皮肉なことに、現在、女性の性は水道の水のように供給されている。あまりに大量に溢れ出すぎていて、女性の性があまりに廉価になってしまっている。それはむろん、男性だけが起こした事態でも、女性だけが起こした事態でもない。両性が起こした事態である。

 もはや、「高価か廉価かという以前に、女性の性に値段を付けることが不自然である」という理想論も、崇高には聞こえなくなっている。我々の労働にも値段は付いている。そのために毎朝玄関を出ていく。そして、職場にも色々な性嗜好の同僚がいる。皮肉なことに、それが社会である。

▼ 私がご相談を受けて交流してきた、精神・身体症状共感覚その他の特殊知覚・症状を持つ女性が入居者の多くを占める、シェアハウス型の女性寮のサイトです。
 女性に特有の症状・知覚については、寮生に解説をお願いしています。
 →→ ●精神・身体症状、共感覚、その他の特殊知覚・症状の解説の分担などについて

シェアハウス型特殊女性寮 コンフィデンシャル・レディース東京(Confidential Ladies Tokyo)

「岩崎式日本語」にまつわる個人的交流

 機能不全家族の中で育ち、成人してから性欲不全や異性恐怖症を呈してしまった女性の方により、家族に対する秘密言語として岩崎式日本語が使用されている。

参考文献(精神疾患研究のトップページに挙げた文献以外)

"HBIGDA Standards Of Care For Gender Identity Disorders, Sixth Version" (PDF). Standards Of Care For Gender Identity Disorders. Harry Benjamin International Gender Dysphoria Association. 2001-02.
Conway, Lynn. "How Frequently Does Transsexualism Occur?". Retrieved 7 April 2013.
『性的倒錯―恋愛の精神病理学』 Medard Boss(著)、村上仁 (翻訳)、吉田和夫 (翻訳)、みすず書房、新装版、1998
「ED(勃起障害)についてナースが知っておくべきこと」『泌尿器ケア』2010年9月号、メディカ出版
「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン(第3版)」 日本精神神経学会、2006